科学研究費による研究 「砂糖中毒を制御するための、渇望の増強に対する環境刺激と経験の効果の検討」
研究課題番号:24530930 研究期間 2012年4月1日~2015年3月31日

甘味物質への渇望

研究の目的

砂糖に対しても薬物と類似した強い渇望を伴う“中毒”症状が生じ、健康な食生活を送る上で妨げとなると言われている。本研究では、砂糖に対する渇望が獲得され、さらに増強されるプロセスを、条件づけの観点から検討し渇望を適切に制御するための手法を開発することを目的とした。特に、砂糖を強制的に剥奪することによって、砂糖に対する渇望が強まる現象である、渇望の増強(渇望の孵化)は、薬物中毒の研究で従来から示されてきたものであり、同様の現象が砂糖水においても生じることは重要な意味を持つ。

本研究では、渇望の増強を中心に、以下の3つの課題の検討を実施した。

(1) カロリーの無い人工甘味料についても渇望の増強が生じるか

 食物に対する渇望が生じる場合、通常、甘い味があり、それに加えてカロリーの高い食物が渇望の対象となる。砂糖に関して渇望の増強が生じることは先行研究(例えば、Grimm, et al., 2005)から明らかであるが、渇望の増強が生じるには甘味と高カロリーの両方が必要であるのか、甘味だけで良いのかは現在まで明らかとなっていない。そこで、砂糖ではなくカロリーの無い人口甘味料でなくサッカリンを用いた場合にも渇望の増強が生じるか否かを検討した。

(2) 間欠的な剥奪によっても渇望の増強が生じるか

 砂糖に対する渇望の増強は、砂糖の投与を続けた後、一定期間砂糖を完全に剥奪することによって生じることが確認されてきた(例えば、Grimm et al., 2005)。しかし、人間の日常生活の中では、砂糖などの甘味物質の剥奪は完全にされることは稀で、通常は摂取頻度の低下などで行われる。そこで、砂糖の完全な剥奪ではなく間欠的な剥奪によっても渇望の増強が生じるかを検討した。

(3) 環境の豊富化によって渇望の増強が抑制されるのか

 砂糖に対する渇望の増強が、ラットの飼育環境の豊富化によって抑制されるというデータが示されている(Grimm et al., 2008, 2013)。本研究では、渇望の増強に対する抑制効果が、①砂糖摂取に関して生じるのかと②砂糖と結びついたcueへの反応性に対して生じるのかを別々に検討した。

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