科学研究費による研究 「砂糖中毒を制御するための、渇望の増強に対する環境刺激と経験の効果の検討」
研究課題番号:24530930 研究期間 2012年4月1日~2015年3月31日
甘味物質への渇望
研究の結果
(1) カロリーの無い人工甘味料についても渇望の増強が生じるか
レバーを押せばサッカリン水が与えられる条件で訓練した。その際、光と音のcueもサッカリン水と同時に与えた。レバー押し訓練の後、サッカリンを1日剥奪する群(1日群)と30日剥奪する群(30日群)に分けた。剥奪期間後、レバーを押せばcueのみが与えられる条件でテストを実施した(cueテスト)。このcueテストでレバーを多く押すほど、サッカリンに対する渇望(craving)が強いことを意味する。
Cueテストの結果、1日群よりも30日群の方が、有意に多くレバーを押す反応をした。つまり、カロリーの無い人工甘味料であるサッカリンを用いた場合にも、渇望の増強が生じることが明らかとなった。このことは、甘味物質に対する渇望が生じることに本質的な意味を持つのは、物質の甘味で有り、高カロリーであることは必要が無いことを示す。
研究の成果は、Appetite誌に2014年に発表された。
Aoyama, K., Barnes J. &, Grimm J.W. (2014). Incubation of saccharin craving and within-session changes in responding for a cue previously associated with saccharin. Appetite, 72, 114-122.
(2) 間欠的な剥奪によっても渇望の増強が生じるか
レバーを押せば砂糖の餌粒が与えられる条件で訓練した。その際、光と音のcueも砂糖と同時に与えた。レバー押し訓練の後、砂糖を1日剥奪する群(1日群)と30日剥奪する群(30日群)に分けて、剥奪期間の後にテストを行った。さらに、テストは30日後だが、その間、砂糖を2日に1日の割合で与える群(間欠30日群)も設けた。剥奪期間後、レバーを押せばcueのみが与えられる条件でテストを実施した(cueテスト)。Cueテストの翌日には、レバーを押せば砂糖とcueが与えられる条件でもテストを実施した(摂取テスト)。
cueテストにおいて、30日群は1日群よりも反応数が多く、渇望の増強が生じた。間欠30日群は、1日群と30日群の中間程度の反応数であった。この結果は、間欠的な砂糖剥奪の条件でも、渇望の増強は強まるが、完全な剥奪の場合よりも増強される程度が弱いことを意味する。
摂取テストにおいては、30日群は1日群よりも反応数が多く、ここでも渇望の増強が生じていた。一方、間欠30日群は30日群と同程度の反応数となっていた。つまり、実際に砂糖が摂取できる状況では、間欠的な剥奪の場合でも、完全な剥奪の場合と同様に渇望が増強された。
研究の成果は、2013年度の日本行動分析学会にて報告された。
青山謙二郎・武藤崇 (2013). ラットの砂糖渇望のincubationは、2日に1日の割合で砂糖を剥奪した場合にも生じるか? 日本行動分析学会第31回年次大会
(3) 環境の豊富化によって渇望の増強が抑制されるのか
レバーを押せば砂糖の餌粒が与えられる条件で訓練し、その際、光と音のcueも砂糖と同時に与えた。レバー押し訓練の後、砂糖を1日剥奪する群(1日群)と30日剥奪する群(30日群)に分けて、剥奪期間の後にテストを行った。さらに、30日後のテストまでの剥奪期間の間、豊かな環境で飼育する群(豊富化群)も設けた。この群では、回転車などのある大きいケージで2匹で飼育し、新奇な玩具なども与えた。剥奪期間後、レバーを押せば砂糖とcueが与えられる条件でもテストを実施し(摂取テスト)、その翌日にはレバーを押せばcueのみが与えられる条件でテストを実施した(cueテスト)。
摂取テストにおいて、30日群は1日群よりも反応数が多く、渇望の増強が生じた。一方、豊富化群は30日群と同程度の反応数となっていた。つまり、環境の豊富化は摂取量に関しては渇望の増強を弱める効果を示さなかった。
図5に示すように、cueテストにおいて、30日群は1日群よりも反応数が多く、ここでも渇望の増強が生じた。豊富化群は、1日群と30日群の中間程度の反応数であった。この結果は、cueテストにおいては環境の豊富化により、30日の砂糖剥奪による渇望の増強が弱められることを意味する。
研究の成果は、2015年度のNeuroscience 2015にて発表を予定している。