Topic 2:犯罪
心理学の視点で『犯罪』に迫る。
ニュースを見ていると、毎日のように犯罪事件のことが報道されています。
罪を犯すのがヒトであれば、罪を被るのもヒト。
その罪を立証したり裁いたり更生させるのもヒトです。
「犯罪」に関することには、心理学が大いに関係しています。
【CASE 1】「なぜ人々は犯罪が多いと思い、不安を感じるのか」
最近、いわゆる「闇バイト」や「アポ電強盗」が話題となったため、犯罪が増え日本の治安が悪化していると思う人もいるかもしれません。しかし、犯罪認知件数は2021年までは戦後最小を更新し続けており、ピークだった2002年の4分の1程度です。では、なぜ私たちは犯罪が多いと思い、不安を覚えるのでしょうか。原因の1つとして考えられるのが犯罪報道です。「アポ電強盗」や殺人事件のような極端に凶悪な犯罪は実はあまり多くありませんが、珍しいためにかえって注目されて盛んに報じられます。それを繰り返し目にした私たちは凶悪犯罪が多いように感じてしまうことがあり、不安を覚えるようになるのです。
KEY WORD
【リスク認知】
犯罪被害や災害などさまざまなものごとに対する主観的なリスク評価のこと。客観的なリスク評価は被害の重大性と生起確率からなりますが、一般市民のリスク認知がその通りになるとは限りません。このため、市民と専門家の評価は乖離することがあります。
【犯罪不安】
犯罪被害に遭うことに対する不安のこと。犯罪に対するリスク認知が高いほど不安も高いことが知られています。報道や人づてに犯罪被害を聞いたり、落書きやポイ捨てなどで近隣の秩序が乱れていると感じると高くなることがあります。
【ヒューリスティックス】
簡便で素早い思考方略のこと。代表的な例が、容易に思い出せる事例を典型的だと考える方略である利用可能性ヒューリスティックです。報道でよく聞いていて思い出しやすい事件を、実際は珍しくても沢山起きていると考えてしまうのはこのためです。
【CASE 2】「厳罰に処せば人は再犯をしなくなるのか」
厳しい罰を与えれば懲りて犯罪をしなくなる。これは本当でしょうか?答えはNoです。複数の研究で、犯罪者への罰を厳しくしても再犯率は下がらないか、むしろ社会全体の犯罪率が上がる事例もあることが明らかになっています。例えば非行少年を刑務所に連れて行きさまざまな嫌な思いをさせ改心させる「スケアードストレイト(脅してまっとうにする)」というプログラムは、少年が泣きじゃくり反省の言葉を述べるので一見効果があるように見えるものの、長期的には再犯率を上げることが知られている有名な介入の一例です。処罰感情や思い込みに流されず研究に基づく効果的な介入を行うことが、実際に再犯を減らし、次の被害者を生まない社会を作ることに役立ちます。
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【科学的根拠のある実践】
医学や心理学を含む広い領域で、科学的根拠のある実践(エビデンスベースド・プラクティス)が重視されています。アメリカ心理学会のホームページでは、心理学における科学的根拠に基づく実践を「患者の特徴、文化、および志向性という枠組みの中で得られる最新最善の研究エビデンスと臨床上の判断を統合させたもの」と定義しています。
【犯罪行動のリスク因子と介入の原則】
再犯した人としていない人を比較した研究から、再犯した人に共通する「リスク因子」が明らかになっています。これらは過去の犯罪歴、反社会的態度(社会規範の軽視)、家庭内や職場・学校での問題などを含む8つの項目で「セントラルエイト」と呼ばれ、過去の犯罪歴を除く7つの要素を介入によって変化させることが、効果的に再犯率を下げる原則と言われています。
【CASE 3】「生理反応から犯罪事実の『記憶』を探る」
いわゆる「嘘発見」といわれるものは、日本の警察ではポリグラフ検査と呼ばれています。ポリグラフ検査は、犯人が嘘をついたときの生理反応を調べていると思われがちですが、実はそうではありません。例えば、盗まれた財布に3万円入っていたとします。金額は犯人しか知りません。この状況で、財布に入っていた金額について「1万円」「3万円」「5万円」と尋ねていきます。無実の人であれば金額を知らないのでどの金額に対しても同じ生理反応が出ますが、犯人は金額を知っているので「3万円」に対して大きな生理反応の変化が出ます。これは質問に対して黙っていても反応が出ることから、嘘ではなく犯罪事実の『記憶』を反映していると考えられています。
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【ポリグラフ検査】
ポリグラフとは複数の生理反応を同時に計測する装置のこと。ポリグラフ検査では、心拍数、呼吸、発汗などを同時に計測します。犯罪事実に関連した項目に対しては、心拍数が減少し、呼吸が遅くなり、発汗が増加します。
【隠匿情報検査(Concealed Information Test: CIT)】
犯罪事実に関連する項目(裁決項目)と、それと同カテゴリーだが犯罪事実に関連しない項目(非裁決項目)を呈示する質問方法のこと。本文の例だと、3万円が裁決項目で、1万円と5万円が非裁決項目です。実験では、事実を知っている人を「知っている」と正しく判定できる確率は86%といわれています。