私たちにとって、案外身近に存在する心理学。「心理学のネタは日常生活のいたるところに存在する」という考えで学生の指導に当たる鈴木教授と、鈴木ゼミに所属し、自由な発想で研究に取り組む3人の学生に語り合ってもらいました。
— 初めに、同志社大学の心理学部を選んだ理由を聞かせてください。
福井さん | もともと医学の道を志していたのですが、同志社の大学案内を見て心理学部でも科学的な研究に取り組めると感じて興味が湧きました。また、心理学を学べる大学の中で、学部として確立していることもポイントでした。 |
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西村さん | 私も同じような理由です。きっかけは脳科学を研究したいと思ったことでした。生物系の学部に行くか、心理学として脳の勉強をしようかと迷ったのですが、最終的には心理学の方が「単純に面白そう」と感じました。 |
鈴木教授 | 面白そうと感じたのは、例えばどんなところですか。 |
西村さん | 人の行動に焦点を当てるという点です。分子レベルの話ではなく、人の行動に表れている現象を扱うことに興味を抱きました。また、数ある大学の中で同志社を選んだのは、実験施設が充実していたからでした。千葉県出身なので、関西の大学にはあまり目を向けていませんでしたが、調べてみて本格的に心理科学が学べると思いました。 |
佐藤さん | 私の場合は、心理学という学問の未知なる魅力に興味を持ちました。私が入学する年度から主に理系学部が京田辺に、文系学部が今出川にとキャンパスが分かれたのですが、京田辺キャンパスに配置された心理学部には、理系の要素が強い印象を入学前から持っていました。 |
鈴木教授 | 実は、学部として独立するまでは、文学部内の1つの学科や専攻として扱われていました。しかし、実験などが多いことを考えると、単一で学部として独立した方が自然だったのかもしれませんね。私は同志社大学文学部文化学科の心理学専攻を卒業しましたが、もともと得意だったのは数学と社会で、それらを活かせる学問だと思って選んだのです。また私が大学に入学したのは、ちょうどコンピュータが世の中に普及し始めた頃で、将来身体の病気は機械が治すことになっていくであろうが、心の病気は人間でないと治せないと思いました。学問としてあまり世間に浸透していない時代に、私が心理学の道に進むことを決めたのは、そんな理由からでした。 |
“心”を学ぶことで、
視野が広がった。
— 実際に心理学を学んだ感想を教えてください。
福井さん | 世間の多くの人が持っている心理学への誤ったイメージを、先生方が打ち砕こうと苦心されているように感じます。 |
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鈴木教授 | そこまで大げさなものではありませんが、私の場合は毎回授業で心理学についての素朴な疑問や質問に答えるようにしています。例えば、血液型と性格の関係はよく投げかけられる質問の1つですが、まさに世間が抱きがちな誤解の典型です。もちろん血液型も遺伝的要素なので、性格に全く影響を与えないとは思えません。しかし、それよりも大きな影響を与えるのが環境的要素です。つまり血液型だけを頼りに個人の性格を特定するのは、少し無理があるのです。 |
西村さん | 鈴木先生以外にも授業の度に質問に答えてくださる先生がいらっしゃって、双方向で授業が展開されています。そのため、毎回さらに疑問が生まれて興味が湧いてきます。疑問に対してすぐに答えが出ないこともありますが、簡単に解決できることばかりでないのも、人の心を扱う心理学の魅力だと感じています。 |
鈴木教授 | 高校までと大学の学びの大きな違いは、明快な答えが用意されていないことが多いことです。大学では、分からないからこそ取り組んだり、分かったと思っていることでも見方を変えてみたりすると「あれれ」ということがあります。学生の質問の中には、本質を突いているなと感じるものも多く、私自身新たな発見やヒントにつながる場合もあります。 |
心理学という学問に、
未知の魅力を感じた。
— 日常生活で実践している心理学を教えてください。
福井さん | 塾で小さい子に英語を教えているので、学習心理学を実践しています。「できたら褒める、できなかったら無視してみる」といった簡単なものですが、一定の効果を実感しています。また、所属しているアカペラサークルでは機材準備のリーダーを任されています。人を動かさないといけないときにも、心理学の知識を活かして相手の考えに対応できるようになりました。 |
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西村さん | 周りに対してもですが、自分自身にも応用できるのが心理学です。私は心理学を通じて視野を広げることができました。行動分析の授業で自己監視について教わったので、それ以来、勉強時間を常に記録するようにしています。そうすることで毎日どれくらい勉強しているか 把握して、勉強時間を延ばすことができました。 |
佐藤さん | 私も心理学を学ぶ中で、自身の理想像に近づくためには自分自身を客観的に監視し、行動について自覚を持つことが大事だと知りました。当たり前のことのように思いますが、学問として学ぶことで明確にその大切さに気づくことができました。 |
西村さん | 最近では、時間管理のスマートフォンアプリも多数登場しているようですね。心理学が実生活に活かされている例の1つだと思っています。 |
鈴木教授 | 心理学の対象は人間の営みそのものですからね。日常生活のどこにでも応用でき、また関係があるのです。多くの人が誤解しているように、人の心が操作できるようになるわけではありません。しかし、データサイコロジーという言葉があるように、現在の心理学はデータに基づいて実証されるものです。データなどを分析して物事や人物を客観的に見ることで、身近な疑問を解決できることもあります。 |
西村さん | 心理学部に入って驚いたのは、1年次から複数の実験授業が組まれていることです。印象に残っているのは、一般に“嘘発見器”として知られている、ポリグラフ検査機を用いて行った記憶テストですね。 |
鈴木教授 | 例えば殺人事件では、犯人だけが何が凶器だったか知っていますよね。凶器がナイフだった場合、犯人はナイフという言葉を聞くと、「汗をかく」「鼓動が速くなる」などの特異的な生理反応を示すようになります。一方でその他の人はナイフが凶器だったことを知らないので特に反応を示しません。こうした反応の違いを計測するのがポリグラフ検査です。授業では、数字が記入されたカードを用いて擬似的に体験します。 |
西村さん | まず体験して、それから興味のあるものを深く研究できるという点で、1年次から実験ができるのは大きな魅力だと思います。 |
鈴木教授 | 座学の授業は心理学部に所属していなくても受けることができます。しかし実習は心理学部の学生以外は受講できません。せっかくですから、さまざまな実験を経験してほしいです。人間を相手に実験を行うと、必ずしもうまくいくことばかりではありません。機械のトラブルももちろんあります。いかにすれば正確なデータを得ることができるか、試行錯誤を繰り返して、多角的に考える力を養ってほしいです。 |
心理学は人間の営みそのものが対象。
生活の全てに関係がある。
— 卒業論文のテーマは決まっていますか。
学生たち | おおむね決定しています。 | ||||
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西村さん | 私は「笑うこと」と「副交感神経の働き」の関係について執筆する予定です。人間は笑うことによって副交感神経が活発に働き、リラックスできると言われています。病院の治療でも、患者を笑わせるためにピエロを呼ぶことがあると聞いたことがありますし、個人的にも笑うことによって肩の力が抜けて落ち着くという経験がありました。最終的な結論としては、心から笑うことが必要なのか単純に笑顔を作るだけでいいのかを明らかにしたいです。 | ||||
佐藤さん | 笑顔を取り上げる点では私も同じです。私は自然な感情から出てきた表情と、意図して作った表情を比べて感じる、違和感の理由を知りたいと思っています。必ずしも笑顔である必要はありませんでしたが、研究科生の方に「世界中で共通の表情だ」とアドバイスをいただき、笑顔を取り上げようと思いました。 | ||||
福井さん | 実は私も笑顔がテーマで、表情について脳科学的側面から研究しようと思っています。脳波測定装置や機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を使って、頭の中にイメージしている表情と実際の表情の違いの原因を調べ、自閉症やコミュニケーション障害の治療につなげたいです。 | ||||
鈴木教授 |
今回の3人はたまたま「笑顔」をテーマに研究を行っていますが、笑顔を専門に扱っているわけではありません。学生たちの中には、文化心理学※的な実験をやる人もいれば、純粋生理学※的な研究に取り組む人もいます。どのような内容で執筆するにせよ、「基本的に卒論は自分のもの」というスタンスで臨んでほしいと思っています。もちろん相談にはいくらでも乗りますが、実際に研究するのは学生たちです。大学院に進まない限り、学生として最後の課題です。日常生活を送る中で自分が面白いと思うことや不思議に感じたことを取り上げ、それを卒論として研究すればいいのではないでしょうか。それを心理学の卒論のレベルまでもっていくのが私の役目だと思っています。なんといっても、私自身が自分の興味のあることで卒論を執筆した人間なので、ゼミ生に「私の言う通りにやりなさい」とは言えません。
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西村さん | 入学式のとき、「卒論のテーマを日々考えておくように」とアドバイスをいただいたので、毎日疑問に思ったことをメモしておくようにしました。執筆を始めるタイミングで改めてテーマを絞り、鈴木先生に相談して最後に残ったのが今のテーマでした。 | ||||
福井さん | 私も日常的に気になるテーマはメモしていました。もともと理系出身なので生理学系の分野を絡めて研究したいと考えていて、授業でさまざまな事例を学ぶうちに「表情」に興味を持ちました。心理学に生理学を絡ませると、通常よりさらに理系に寄った知識や機材が必要とされるので、他のゼミでは扱うのが難しいと言われることが多かったのですが、理系的な考え方を持ってらっしゃる鈴木先生にはしっかりサポートしていただいています。 |
いつか自閉症の治療に、
心理学を活かしたい。
— 志望する進路について教えてください。
西村さん | ずっと研究職を志望していたのですが、将来のことについて色んな方から話を聞くうちに、直接人を支える仕事がしたいと思うようになりました。今は、家事審判等について法律的な知識と事件の背後にある環境を理解して解決を図る家庭裁判所調査官を目指しています。心理学の知識を活かしながら当事者の心をサポートし、家庭や少年少女の人生に関わっていきたいと考えています。 |
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佐藤さん | 同じく、心理学部で学んだことを活かす仕事がしたいです。ただ、それは、心理学の専門知識には限りません。例えばコンサルティング会社のシンクタンクでデータを基に調査書をまとめるなど、統計処理のスキルを活かせる会社にも目を向けています。 |
福井さん | 私は大学院への進学を考えています。せっかく心理学部に入ったのでこの道を究めたいですね。研究職を目指していますが、将来的に発達障害の支援に関わりたいので、臨床分野の知識も養っていくつもりです。 |
鈴木教授 | 同志社の心理学部が大切にしているのは、基礎研究だけでも臨床などの応用だけでもありません。学部に受け継がれている「基礎を学ぶものは応用にも目を向け、臨床を学ぶものは基礎の知見にも目を向けよう」という言葉が表すように、学生たちには心理学を支えている両者を、バランスよく学んでほしいと思います。また、何事にも好奇心を持ち、「人間」が好きな人、さまざまなことに対して「なぜだろう」という気持ちを持つ人は、ぜひ私たちと一緒に心について学んでほしいですね。 |
— ありがとうございました。