広告科学, 1998, 第36集, 85-97.

ゼロリスクが不可能であることを伝えると
人々の反応はどう変わるか

中 谷 内 一 也( 静 岡 県 立 大 学 )
杉 本 徹 雄( 上 智 大 学 )


実験の概略 :
 人々の判断や意思決定が期待効用モデルに沿わず,ある場合にはリスク志向が強まったり, 逆に,別の場合ではリスク回避傾向が強まったりすることを説明しようとするプロスペクト理 論(Tversky and Kahneman, 1981)では,人の確率に対する評価(ウエイト)は,確率が非 常に低いものであってもOでない場合は過大視されるとしている。すなわち,ネガティブな事 態に対しては,それが生起する可能性がある以上,非常に稀にしかおこらないといわれても過 剰な反応を示してしまうと予想されるのである。相対的にみると,ネガティブな状態が絶対に 生じないという意味でのゼロリスクは消費者を強く引きつけるものと考えられる。 しかし,先 述したように,それは現実には達成し得ない。では,ストレートに,ゼロリスクは不可能であ ると伝えた場合,それに対して消費者はどう反応するのであろうか。今回の研究では,第一実 験において,そのようなメッセージを含む架空の広告への反応を調べた。方法としては,質問 紙を用い,広告されている商品の購入予測や価格の評価,メッセージの送り手への信頼性など を条件間で比較検討した。また,第二実験では,商品選択プロセスにおけるそのようなメッセ ージの影響を検討した。方法は,情報モニタリング法を用い,被験者に3種類の浄水器から一 つを選択するよう求めるというものであった。
 いずれの実験においても,「先端技術を投入しても,ゼロリスクは不可能」という教示を与え た群では被験者の反応がどう変化するのかを調べる,というのが大きな枠組みとなっている。

(本文より抜粋)