審査付論文
広告科学, 1990, 第29集, 25-36.

比較広告における両面訴求法の導入効果
-コミュニケーション研究として-

中 谷 内 一 也( 同 志 社 大 学 )
石  橋 優 子( 同 志 社 大 学 )


 広告における様々な表現テクニックのうち,特定の他社ブランドを引き合いに出して自社ブラ ンドの長所を強調する,いわゆる比較広告の実施は,最近まで強い制限下におかれていた。その 理由としては,自社ブランドが競争関係にある他社ブランドよりも“著しく優良であると一般消 費者に誤認されるため,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる 表示を”禁止する景品表示法第4条の解釈上の問題や,各業界単位で設定されている公正競争規 約で,名指しタイプの広告が禁止されていたことなど,法律や制度上の問題点があげられる。さ らに,わが国の大手広告代理店では一業種内で複数の会社と契約を結ぶことが多く,そのため, 露骨な比較広告を実施しにくい状況にあることも一つの理由であろう。
 ところが,このような比較広告の実質的な禁止状態に対して,外資系企業などから“外国製品 の新規参入手段である比較広告を禁止することは,その売り込みを阻害するものである”と言う 非難の声が高まった。そして,貿易摩擦解消のための輸入増進を急務としていた行政側は,この 問題に対処する必要に迫られるようになってきた。このような経緯の末,1987年4月,公正取引 委員会は比較広告に関するガイドラインを発表した。その骨子は,(1)広告で主張されている内容 が,客観的に実証されている,(2)実証されている数値が事実を正確に引用する,(3)比較の方法が 公正である,という条件が満たされていれば,比較広告には景品表示法上の問題はないというも のであった。
 さて,それでは今後,わが国においても欧米のように比較広告が盛んになってゆくのであろう か。このことを占うには,上述の法制上の問題だけでなく,わが国の消費者の体質に比較広告を 受け入れる素地があるのかどうかを検討する必要がある。このような問題意識から中谷内・石橋 (1989)は,比較訴求を取り入れたちらし広告を作成し,それに対する被験者の反応を調べた。 その結果,比較広告は従来の広告に比べて注意を惹きやすいという利点かおるものの,内容に対 して反感がもたれやすく,広告主イメージをも悪化させる可能性かおることが見いだされた。こ の結果は,特定のちらし広告を材料としているため,解釈の一般化には限界があるが,いずれに しても,比較広告が全面的に望ましい効果をもたらすとはいえないようである。特に,広告その ものに対する反感だけでなく,広告主イメージの悪化をも招くとすれば,その会社のマーケティ ング戦略全休に重大な影響を及ぼすものと思われる。   

  
(本文より抜粋)