広告科学, 1989, 第18集, 39-44.

中国における広告観の調査
-日本との比較をとおして-

中 谷 内 一 也( 同 志 社 大 学 )
永 野 光 朗( 同 志 社 大 学 )
杉 本 徹 雄( 静 岡 県 立 大 学 )
凌  文 セ ン( 中国科学院心理研究所 )
小 嶋 外 弘( 同 志 社 大 学 )


 1979年の広告開放以来,中国の広告業界は飛躍的な発展を遂げてきた。開放以前は全国に10社 あまりしかなかった広告公司も現在では国内業務を扱うもの,対外業務を扱うもの合わせて 100社を越し,1987年の営業総額は10億元を突破したと伝えられる。この発展は文革後の近 代化政策,開放政策による国内経済活性化の推移とほぼパラレルな動きを示している。さらに, 近年では都市部においてテレビ普及率がきわめて高くなっており,また各種雑誌の創刊が相次い でいることなどから,現在の政策が今後も維持されると仮定するならば,中国の広告業界はさ らに発展するものと期待される。  それでは,今後,広告産業の伸びや制作内容の変容など,広告にかかわる諸問題はどのように 展開してゆくのだろうか。この問題を展望するには次の2つの作業が必要である。ひとつは広告 公司や行政など広告の送り手側が過去に打ち出してきた戦略やこれからの方針について調べるこ とであり,もうひとつは受け手側の消費者が広告に対してどのような態度や意見を有し,何を期 待しているかを調べることである。送り手と受け手とはメディアでの広告活動と購買行動を通じ て相互作用をもち,この相互作用の循環によって広告にかかわる諸問題の変化の方向性が現われ てくる。従って,送り手側の調査と受け手刺の調査はいずれも不可欠なものであるが,これまで のところ,受け手である一般市民の広告に対する意識調査については,実施上のさまざまな困難 かおり,充分な資料が得られていなかった。そこで今回,中国科学院心理研究所の協力を得て, 北京市在住の大学生を対象とする質問紙調査を行うこととなった。調査対象者が大学生のみであ ることからサンプルの偏りは否めないが,現時点においてはさまざまな職種,階層についてラン ダムサンプリングを行うことは非常に困難であり,また,今後の中国社会の中心を担っていく大 学生達が広告に対してどのような意識をもっているのかを調べることも有意義なことであろう。 質問内容は広告一般に対する意見を始めとして,各マスメディア別の広告観,各マスメディアに ついての接触頻度,さらには購買態度(RECスケール)や生活様式に関するものなど多岐に 渡っていたが,本稿では特に,広告一般に対する意見,テレビ広告に対する意見,および広告 に求める役割,についての結果に絞り,日本人学生を対象に得られたデータとの比較を通して吟 味する。

(本文より抜粋)