同志社心理, 1987, No.33, 57-63.

消費者の価格 - 品質関係知識の検討

中 谷 内 一 也


   近年,消費者心理学分野では,製品の選択や評価事態における消費者の情報処理に,対象とする製品カテゴリーについての知識がどのような役割を果たすのか,という問題に強い関心が 向けられている(Bettman, 1986)。 この問題を検討するには,まず,製品カテゴリー知識の諸特徴を解明することが不可欠であり,現在,製品カテゴリー知識のモデル化(Mitchell, 1982 ; Crocker, 1984)や測定法の開発(Kanwar,Olson, & Sims, 1981; Marks & Olson, 1981 ; Brucks, 1985)が急速に進められている。
 ところで,消費者は各自の直接的な経験や各種媒体から間接的に得られた情報をひとつひとつ個別に記憶するのではない。もちろんそのような性質の知識もある程度記憶することはでき るが,人間がすべての情報を個別に記憶することは時間や記憶容量の点からみて非能率的であるため(安西, 1986),個々の情報は一般化・抽象化の過程を経て組織的な知識構造へと変容 される。一般に知識構造は構成要素の結合関係として表現され,製品カテゴリーについての知識構造を扱ったMitchell(1982)やCrocker(1984)のモデルでは,さまざまな製品属性 や商品名,サブカテゴリー名が構成要素として示されている。これらの構成要素の多くは対象とする製品カテゴリーによって変異するが,例外的に,価格はすべての製品カテゴリーを通し て普遍的にみられる製品属性である。これまでの研究で,価格は製品の品質を推定するための手掛りとして利用され,選択や評価事態において重要な役割を果たすことが示されてきた (Gardner, 1971 ; Etgar & Malhotra, 1981 ; Levin & Johnson, 1984 ; 小嶋,1986)。従って,価格一品質関係はさまざまな製品カテゴリーに対する知識構造に共通して 含まれる成分であり,製品の選択や評価事態における消費者の情報処理様式を規定する主要な内的要因のひとつであると考えられる。そこで本研究では,消費者が価格一品質関係をどのよ うに捉えているのかを多属性分析の視点から検討する。多属性分析的アブローチでは,ある製品の全体的品質はその製品を構成する各属性の水準によって規定されると考えるので,価格一品質 関係は価格一属性関係へと還元することができる。本研究では,価格を品質推定のための手掛りとして調査対象者に呈示し,全体的品質だけでなく各属性の良さについても推定を行なわせ, 価格の変化に応じて全体的品質推定値および各属性推定値がどのように変異するのかを検討する。

(本文より抜粋)